大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 昭和48年(ワ)900号 判決 1974年6月14日

原告 前田治郎

<ほか六名>

右原告ら訴訟代理人弁護士 外山佳昌

被告 大成宇部コンクリート工業株式会社

右代表者代表取締役 浅野歓一

右訴訟代理人弁護士 開原真弓

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一請求の趣旨

一  被告は原告らに対し別紙債権目録記載の金員及び右各金員に対する昭和四八年一〇月二五日以降各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

第二請求の原因

一  原告らはいずれも被告会社の従業員であり、昭和四八年九月二四日原告らのうち谷口、宮瀬の二名は欠勤したが、その他の原告はいずれも出勤した。

二  ところで被告会社は一〇月の給料支払いに際し、原告谷口、同宮瀬は同日欠勤したものとして一日分の賃金カットをして支給し、その他の原告らは平日出勤であるとして祝日労働に支払うべき二割五分増しの賃金を支給しなかった。

三  被告会社が原告らに対し右のような取扱いをしたのは、当日が休日ではなく平日勤務であるからという理由である。

四  しかしながら昭和四八年四月一二日公布施行の「国民の祝日に関する法律の一部を改正する法律」によれば「国民の祝日」が日曜日に当るときは、その翌日を休日とする旨の法律改正がなされ、被告会社の就業規則二二条には、従業員の休日として国民の祝日が規定され、同二三条には休日労働には二割五分増しの賃金を支払う旨規定されているのであるから、九月二四日は当然これに該当し、休んだ従業員に対しても賃金カットは出来ず、出勤した従業員に対しては二割五分増しの賃金を支払わなければならない。

現に被告会社は四月三〇日を休日として取り扱っている。

五  よって被告会社の右取扱いは就業規則に違反する違法なものであるから、当日出勤した原告らに対しては休日出勤賃金請求額算出表に基く計算により算出した別紙債権目録記載の金員、欠勤した原告二名に対しては同じく賃金カット分返戻額算出表に基く計算により算出した別紙債権目録記載の金員及び右各金員に対する給料支払い日である昭和四八年一〇月二五日より支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による利息相当の遅延損害金の支払いを求める為本訴に及ぶ。

第三請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第四請求原因に対する答弁

請求原因第一項ないし第三項は認める。

第四項中「国民の祝日に関する法律の一部を改正する法律」に原告主張の如き規定が存することは認めるが、原告の解釈は独自の見解であり首肯できない。右条文の解釈については総理府の見解も表明されているとおり「翌日の祝日は日曜日でもなく国民の祝日でもない休日」と解するのが合理的であり被告会社の就業規則二二条一項は「日曜日、国民の祝日……その他会社が必要とする臨時休日」を休日と定め、「日曜日および祝日法に規定する休日」を休日とは定めていないことに留意すべきである。

昭和四八年四月三〇日の取扱については前記改正が同年四月一二日施行され、四月三〇日は団体交渉中であり同年五月一日の団交において右法律の解釈について検討する必要があるので就業規則二二条一項六号の臨時休日としたことはあるが原告主張の見解に基き休日として取扱ったものではない。なお昭和四八年五月一日実施された「昭和四八年度ベースアップに関する団交」の協議事項としても審議され右被告の取扱に関する見解は労働組合に明示してあるところである。

第五項は争う。

第五証拠関係≪省略≫

理由

請求原因第一項ないし第三項の事実は当事者間に争いがなく、原告らのうち谷口、宮瀬が欠勤しその他の原告らが出勤した昭和四八年九月二四日の前日に当る九月二三日が国民の祝日であり同時に日曜日であったことは暦のうえで明らかであり、昭和四八年四月一二日公布、施行された「国民の祝日に関する法律の一部を改正する法律」(以下単に改正法という)によれば国民の祝日が日曜日に当るときはその翌日を休日とする旨規定されていることもまた明らかである。

そして≪証拠省略≫によれば被告会社の就業規則第二二条において従業員の休日を日曜日、国民の祝日、年末年始(一二月三一日から一月四日まで)、うら盆(八月一五日、一六日)、創立記念日、その他会社が必要とする臨時休日と定め、同規則第二三条に右休日については労働日の賃金の計算額の二割五分の率で計算した割増賃金を支払う旨定めていることが認められる。

原告は右九月二四日が国民の祝日としての休日であるから被告会社は原告らのうち谷口、宮瀬に対して賃金カットをなしえずその余の原告らに対しては二割五分の賃金を支払わねばならないと主張するので判断するに、前記改正法の趣旨は国民の祝日が日曜日と重なった場合、ややもすると日曜日としての休息に重点が置かれ国民の祝日を記念し喜ぶ意義が薄れるおそれのあることに配慮し、日曜日の翌日を休日としたものと解せられ、右翌日はもとより国民の祝日でもなく日曜日でもなく又いずれかが繰延べられたものでもない改正法によって特別に設けられた休日と解するのが相当である。

従って右九月二四日は前記就業規則第二二条に規定する休日に該当するものとはいえない。

右九月二四日を被告会社の休日とすることは就業規則の改正個別的労働契約もしくは労働協約の締結等被告会社内部における使用者の意思、及び労使間の交渉によって定められるべき問題であって前記改正法の施行に伴い政府が中小企業等に対しても労働政策上休日化を奨励することがかりにありえても企業ないし国民生活の実態は区々であるから労働基準法に反しない限り強制しうる場合のものではなく改正法の施行により当然に右九月二四日が被告会社の就業規則第二二条に規定する休日に該当することになると解釈するのは正当でない。(ちなみに国家公務員の場合は総理府令官庁執務時間並休暇に関する件において官庁の執務時間につき日曜日及休日を除くと規定し一般職の職員の給与に関する法律により国民の祝日に関する法律に規定する休日を休日とする旨規定しており又地方公務員の場合にも職員の勤務時間及び休暇等に関する条例において右同様の規定が存するから前記改正法の施行により当然に右九月二四日が休日となる)

≪証拠省略≫によれば、被告会社はこれより先、同年四月三〇日(国民の祝日であり、かつ日曜日であった四月二九日の翌日)を会社の休日として取扱い出勤者に割増賃金を支払ったことが認められるがこの際は改正法施行直後のことであって法律解釈につき研究を要し他社の取扱いをも検討したうえ被告会社の確定的な方針を定めることにし取り敢えず四月三〇日は右就業規則上の臨時休日として扱うことにしたものであることが認められるから、四月三〇日を休日としたことを以て被告会社が以後就業規則上の休日の解釈を原告主張のとおり定めたものとは認め難く≪証拠省略≫のうち右認定に反する部分は措信しない。

そうすると被告会社が右九月二四日を被告会社の休日として取り扱わないで原告らのうち谷口、宮瀬に対し賃金カットをなし、その余の原告らに対し割増し賃金の支払いをしなかったのは正当であり従って原告らの本訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田辺博介)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例